島田雄貴

判決データ集

揺れる死刑判決~米国から報告

死刑を存続している代表的な国は、米国と中国

死刑を全廃した国は世界で100近くになります。一方で死刑を存続している代表的な国、米国と中国でも、制度は揺れています。

死刑判決陪審員調査団の取り組み

ふつうの市民は死刑判決にかかわったとき、何を考えるのか――そんな問題意識で20年以上、調査を続けているのが、米国の社会学者や法律家らがつくる「キャピタル・ジュリー・プロジェクト(CJP、死刑判決陪審員調査団)」です。陪審が死刑事件の量刑にかかわる32州のうち14州を選び、これまで353の裁判で陪審員を務めた計約1200人に話を聞きました。

陪審員は自らの責任を過小評価する傾向にある

調査ではたとえば、次のような質問をしました。「被告人の量刑に最も責任があるのはだれですか」 これに対し、「陪審全体」と答えたのは約9%。「陪審員個人」は約6%でした。答えが多かったのは「被告人本人」と「法律」。「陪審員は自らの責任を過小評価する傾向にある」というのが死刑判決陪審員調査団の分析です。

陪審員が陥りやすい勘違い

陪審員が陥りやすい勘違いも明らかになってきました。
約44%が「凶悪犯罪などの場合は、法律上死刑にしなければならない」と思いこみ、約37%が「被告人が将来も危険だと思われる場合には、法律上死刑にしなければならない」と勘違いしていました。

ロースクールの教授

死刑判決陪審員調査団の調査は数時間面接し、じっくり話を聞きます。メンバーの一人、インディアナ大ロースクールのジョゼフ・ホフマン教授は、ある元陪審員の男性を訪ねました。
「彼は死刑の評決の苦悩を誰にも話せずにいた」
教授自身、連邦裁判所の調査官として、死刑判決にかかわった経験がありました。それを明かすと、男性はせきを切ったように語り続けました。
「ようやく話せる相手に会ったと思ったのでしょう」

死刑の賛成派も反対派も

死刑判決陪審員調査団には、死刑の賛成派も反対派もいます。
ホフマン教授は賛成派です。ただ、現行の死刑制度には問題があると指摘します。「職業裁判官なら様々な事件を相対化できるが、市民はその事件しか知らず、重い評決に傾きやすい。量刑の決め方にもかなりのばらつきがある」

人間の命を奪うかどうかの判決

一方、死刑廃止しかないというのは、死刑判決陪審員調査団を始めた社会学者のウィリアム・バウワーズ代表です。

「12人の陪審員がそれぞれの偏見や知識の濃淡などを抱え、さらに陪審内での軋轢(あつれき)などがある。このようなあやふやな制度下で一人の人間の命を奪うかどうかの判決を下すこと自体が、人間の能力の限界を超えている」

死刑判決陪審員調査団はこれまで約50本の論文を発表。調査は現在も続いています。

陪審の全会一致

陪審が結論を出すには全員一致が必要です。その過程も死刑判決陪審員調査団の重要な研究対象です。

12人の陪審で、意見が分かれたらどうなるでしょう。

「最初の評決で9人以上が死刑を支持すれば最終的に死刑になる可能性が、7人以下だと終身刑などになる可能性が、それぞれ高くなる」

「8人が死刑判決、4人が終身刑に分かれた場合、最も結論が見えにくくなる」

そんな調査結果が出たといいます。

評決は裁判官への勧告

死刑に賛成の陪審員は、死刑判決をためらう人をどのように説得するのでしょう。

死刑判決陪審員調査団の研究では、(1)評決は裁判官への勧告であり、拘束力はないと強調する(2)選任手続きの際にその陪審員が死刑を考慮すると表明したことを思い出させる――などのパターンがわかったといいます。

家庭のトラブルや訪問販売などの消費者被害は相談を

1987年10月

社会が複雑化するに従って、素人には手に負えない法律問題が増えている。そこで登場するのが弁護士だが、一般の人と弁護士との付き合いは、欧米に比べてまだまだ少ない。しかし、「知り合いの弁護士がいない」「費用が高くて心配だ」などの理由から、自分の判断だけで解決しようとして、ひどい目に遭うケースも多い。「あれこれ悩む前に、まず相談を」と、日本弁護士連合会は呼びかけているが、上手に弁護士を“利用”するにはどうしたらいいだろうか。民事事件のケースについて調べてみた。

弁護士とは

弁護士の仕事は、大きくわけて刑事事件の弁護と民事事件の処理の2つある。

刑事事件では、強盗や詐欺など刑法に触れる罪を犯した人、あるいは犯したとされる人を法廷で弁護するほか、保釈請求手続きなどを行う。

これに対して民事事件では、金銭貸借など私人の間の利害の衝突を処理する。具体的には法律相談、相手方との交渉で処理する示談、裁判所の判決によって決着させる民事訴訟などにたずさわる。また、調停や訴訟によって認められた権利を守るために、差し押さえ、競売など強制執行の手続きや、遺言書の作成などの仕事も行う。

こうした弁護士の仕事について一般の人はどれだけ理解しているだろうか。

日本弁護士連合会が1985年(昭和60年)春に、全国3000人の成人を対象に行った面接調査(有効回答2315人)では、良く知られているのが法律相談(90%)、訴訟事件(79・6%)、もめごとの相手方との話し合い、交渉(71・8%)。余り知られていないのは登記の手続き(27・6%)と税務相談(29・8%)だった。裁判については、「時間がかかりすぎる」(86・1%)、「かなりお金がかかる」(84・9%)ので、「よほどのことがない限り裁判はしたくない」(88・3%)という回答が多かった。

弁護士の探し方

「弁護士はどんな時に頼むか」。前述の調査では「問題が素人の手に負えない時」(63・7%)が最も多く、次いで「あらゆる手段を尽くしても目的を達しない時」(17・3%)。ぎりぎりまで追い詰められて初めて弁護士をたずねる人が多いようだが、それでは手遅れ。日弁連では「本当はトラブル予防のための相談がベスト。困ったことが起きたらすぐ弁護士に相談してほしい。早ければ早いほど処理は簡単で費用も安い」という。

ところで、弁護士探しだが、知らない弁護士事務所への「飛び込み」は禁物。一見(いちげん)の客に対して弁護士は信頼できるかどうか不安で、断ることが多いという。

1番良いのは知り合いの弁護士に相談すること。知らない場合は、弁護士を知っている知人、友人にその弁護士を紹介してもらったらいい。会社の顧問弁護士に相談するのもひとつの方法である。こうしたルートがまったくない人は、全国52か所にある弁護士会を利用してほしい。各弁護士会では各種の相談センターを設けており、弁護士も紹介してくれる。

また、地方自治体も毎週特定の日に無料法律相談を行っており、必要に応じて弁護士会へ紹介状を書いてくれる。東京の場合は、東京弁護士会、第1東京弁護士会、第二東京弁護士会が共同で「弁護士斡旋センター」を設けている。

なお、弁護士の人選では、家庭事件に詳しい女性弁護士など、得意の分野があるので、難事件の場合は、こうした弁護士を選ぶ方がベターだ。

また、弁護士が決まった場合は、事件の実情や経過をすべて伝えることが大切。とくに自分の不利になることは、訴訟の争点になるので、弁護士との十分な話し合いが不可欠である。

弁護士会の活動

全国52か所の弁護士会は、どんな活動をしているのか。東京弁護士会の法律相談を紹介しよう。

「法律相談センター」は、一般相談のほか、特別相談として、サラ金問題、投機的取引被害、医療費問題、遺言書作成などに専門家を配置している。相談料はすべて30分5000円。特別相談では、事件処理を相談担当弁護士に依頼することができる。

1986年度(昭和61年度)の法律相談センターの相談件数は3998件で、うち618件に、相談後、弁護士が紹介された。

このほか、法律に関するワンポイントアドバイスをする「電話ガイド」「子どもの人権救済センター」(いずれも無料)や地上げ事件などに対応する「民事介入暴力被害者救済センター」(30分で5000円)などがある。

第二東京弁護士会でユニークなのは「女性のための離婚相談」。予約制で、相談料は1時間1万円。1987年度は276件の相談があり、うち3分の1が、家庭裁判所の調停前に交渉で解決した。調停にもちこまないで解決した場合の費用は6万円。

また、各弁護士会には、交通事故の相談、示談、あっせんなどを行う「交通事故相談センター」があるほか、各弁護士会で独自の相談を行っているケースが多いので、地元の弁護士会に問い合わせてみたらいいだろう。

弁護士の費用

ところで「高い」と思われている弁護士の費用はどれくらいかかるのだろうか。

民事事件の事件処理は、依頼する時に支払う着手金と、事件が解決した時に支払う成功報酬の2本立てが原則で、弁護士報酬規定で定められている。計算方法は上積み方式になっている。

例えば90万円の貸金取り立てを依頼した際の着手金は、49万円までが15%、50万円から90万円までが12%となる。ただ、着手金、報酬金とも、事件の難易度など内容次第で、標準額より上下30%の範囲で増減する。つまり、100万円の場合の標準額は13万5000円だが、9万4500円から17万5500円の範囲で着手金、報酬金が決められる。

また、着手金は弁護士に処理を依頼した金額、報酬金は事件処理の結果得られた金額に基づき算定される。200万円の貸金取り立てを依頼し、100万円回収した場合は、着手金は200万円を基準に計算し、報酬金は100万円を基準に計算するというわけだ。

離婚など経済的利益では算定できない場合は、原則として経済的利益の価値を500万円とみなすことになっているが、裁判の1審を終えて2審になった場合はどうか、1回限りで即決するような簡単な事件はどうなるのか--など、弁護士の報酬は事件によって複雑。依頼する場合は、費用のことをうやむやにせずに、直接、弁護士に聞いた方が双方ともすっきりして事件処理にあたることができる。

このほか、弁護士費用には鑑定料、顧問料、手数料などがあるが、弁護士は法律の専門的知識を時間で切り売りしていることを忘れてはいけない。特に法律相談などはあらかじめ要点を整理しておいた方が安くつく。

費用立て替え、割賦返済制度も

法律扶助制度

弁護士を頼みたいのに経済的な余裕がない--こんな人のために弁護士を紹介して、その費用を立て替える制度がある。運営は、日本弁護士連合会の外郭団体「法律扶助協会」(本部・東京都千代田区霞が関1の1の1、日本弁護士連合会館内)。

制度の適用を受ける条件は<1>生活が苦しくて、裁判費用や弁護士経費などが出せない〈2〉勝訴、または解決見込みのある事件。<1>の収入基準は、月収が単身者で13万円、家族2人で18万円、家族3人で21万円、家族4人で23万5000円--など。しかし、この基準は手取りベースで、しかも家賃や住宅ローンの支払い分を引いて計算しているので、税込みの収入では、かなりの高所得者も対象になる。

法律扶助協会の相談担当弁護士に事件内容を説明し、扶助が決まると、協会は弁護士を紹介して解決に当たる。事件が解決すれば、立て替えた費用は後日返済することになるが、割賦払いや、場合によっては返済猶予もある。

法律扶助協会によると、1986年1年間に、この制度の適用を求めて訪れた人は約5000人。うち1000人が適用を受けたが、その内容は大半が民事事件で、離婚など家庭問題、不動産取引をめぐる紛争、それに損害賠償が多かった。

東京の場合は、平日の午前10時から午後2時半まで、土曜日は午前10時から10時半までに訪れた人は、その日のうちに制度を適用するかどうかを判断する。全国の弁護士会内にある協会支部でも受け付けているので、お金に不安のある人は相談してみよう。